夢を探す翼

集会はとりあえずお開きとなった。信じがたいことばかりだが、このメンツがくだらないウソをつくためだけにわざわざやってきたとも思えない。ファイアスターはとりあえず、他の族長に伝令を送った。まだ内容は伏せているが。

(吉祥を追いこむほどの敵…。白骨の軍団…。)

ついていけない。だがそれでも現実を認めなければ。

認めたくないことはたくさんあった。スポッティドリーフ、イエローファング、ブルースター死んでいった仲間たち。・・・そして、グレーストライプ。
かれらの死は信じたくはない。だが、悲しんでいるだけじゃ何も変わらない。それを知ってるから森を出た。ブランブルクローを後任にさせた。

相手がなんでも、自分は守らなくてはならないんだ。愛する人を。

ファイアスターが一人、自分を奮い立たせている時だった。

「よう。少し、話せるか?」

「グリフィン・・・。」




「フ、・・・でかくなったな。」

「な、年は少ししか違わないだろ!!」

「はっ、バカ野郎。外見じゃねえ。中身だ。」

「!!」

「立派に、なったじゃねぇか。」

「俺なんて、…まだまだだ。」

(そう。まだだ。俺はまだ誰も超えられてない。)

「・・・そうか。」

グリフィンはそれだけ言うと、沈む夕日をしばし眺めていた。彼の瞳は何を写し、思っているのだろう。俺にはまだ…分からない。

「……聞いていいか?」

「え?」

「グレーストライプと、・・・マンティスムーンについて、だ。」

ファイアスターは少しうつむいた。

「彼らはもう、…帰ってこない。」

二匹とも二本足につかまってしまった。生きていたとしても、会える保証はない。



「・・・そうか、そんなことが・・・な。」

「彼女はお前にあこがれていたよ。実際、戦士としての腕前は…俺より上だった。」

「ほう。」

「…だがいつからだろう。俺は彼女に、漠然とだけど、不安を覚え始めたんだ。」

「不安…。」

「今思えば、彼女を捜索隊に入れるべきじゃなかったかもな…。」

「・・・・・・・。」



「お久しぶりですね。」

「ええ。こちらこそ。」

ジンジャーはシンダ―ぺルトとあいさつを交わした。

「…なぜ、止めなかったんです?」

「え?」

「お弟子さんのことです。なぜ止めなかったんです?強引にでも。」

「・・・それは・・・。」

「『彼女が思った臨んだの生き方をさせたかった。』・・・ですか?」

「・・・・・・・。」

「あなたの行動は大人として正しい。でも、看護猫としては…間違いだ。」

「そんな・・・!」

ジンジャーが手をさっと出して制止を促す。

「俺はごまかせませんよ。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

しばしの沈黙、そして―

「あと、どれくらいなんです?」

「……。安静にすれば一年半。そうでなければ、・・・一年。」

「そう・・・。」




「チッ、イラつくぜ。あのジジイ・・・!」

「まあ、まあ。落ち着きなさって。」

苛立つクラッシュテイルをベリッシーはなだめる。

「…あの、クラッシュテイルさん?」

「なんだ?」

「なぜ、あなたは協力してくださいますの?」

「あん?」

「あなたは、・・・グリフィンさん達とは敵だったのに。」

「さぁな・・・。まあ、スター族には借りができちまったし。何より、あいつが俺以外の相手に殺されるなんてあっちゃいけねぇ。必ずこの手で殺す。」
「だからてをかすきになった…か?」

「まあ、物騒ですこと。」

「ふん、お前はどうする気だ?・・・ダンナが奴らに加担したんだろ?俺は迷わず殺すぞ?」

「私は…。」




「ねえ、君。どうしたの?」

ペガサスは一匹の雄猫、ブランブルクローに声をかけた。

「あなたは・・・。」

「僕はペガサス。…よかったら話してくれない?」

「突然何を…。」

「大丈夫。絶対にだれかに言ったり、君を避けたりしないから。」

「・・・・・・。」




「そっか。父親が夢に…ね。」

「・・・父さんは、父さんは最低さ!!猫と呼ぶのもはばかれる、クズ中のクズだよ!!」
「でも、否定できないんだ。自分の中に野心があるって!!部族を支配したいって!!それが、それが怖くて仕方ない…。」

相当ため込んでいたんだろう。彼はうちに秘めた思いを打ち明け、泣き出してしまった。


「それでいいんじゃない?」

「・・・え?」

「メテオスターって知ってる?」

「!なぜ、その名前を!?」

「僕は、あったことあるんだ。夢で。それが君と同じものかは分からないけど、あの人は言ってたんだ。」

「『野心をもったり、誰かを利用することは罪じゃない。野心をドス黒いエゴにすり替えたり、利用された側が不快な思いをしたりするようなやり方がいけないんだ』って。」

「野心があってもいいじゃない。欲望なんて、あって当然だよ。」

「欲望は、…あって当然…。」

「君が抱いてるのは『夢』。それに必死に手を伸ばすのはむしろいいことさ。」
「ただ、夢を見つめる目線を決してブレさせちゃいけないよ。それができなかったから、親父さんは堕ちたんだ。」

「ブレずに、ただその一点を、まっすぐに見据える…。」

ブランブルクローは一語一語かみしめるように言う。かみしめ、全身にしみわたらすように。

「うん。それじゃあ、頑張って。」

「…!待ってください!!」

「ん?」

「あなたの、…夢は?」

ペガサスはその質問に少し困った様子を見せた後、苦笑気味に答えた。

「まだない。だから、動いたんだ。夢を、探すために。」