最終決戦前篇

 

 

決闘の場所に着いた。

 

「来たか・・・。」

 

レギオンは木の枝に尻尾を巻きつけて逆さまにぶら下がっていた。

気配を感じ取り、マントのように体を包んでいた翼を広げ、ふわりと着地する。

 

「来たな。どちらが勝つにせよこれでこの山の歴史が変わるな。」

 

レギオンは翼を広げて、力を呼び出そうとした。

だが、ジンジャーは待て、というように前足を出していった。

 

「レギオン。戦う前に伝えたいことがあるんです。」

 

「フンッ、どうせおれたちが実の兄弟だってことだろ?」

 

「っ!」

 

「知ってたのか!?」

 

つきそいできたグリフィンがジンジャーに代わって言った。

 

「ああ。おふくろが死ぬ前に言ってたよ。まあ、自分が普通のコウモリ猫じゃないことは気付いてたがな。」

 

「なら、なおさらこんな戦いはすべきじゃないですよ兄さん!!」

 

「・・・。お前と違って俺はこの容姿だからな。今でこそ笑うやつはいないが、俺が何の苦労もなく生きていけたと思うか?」

 

「それは・・・。」

 

レギオンの口調と目つきが鋭くなる。

 

「悔しかったさ。だから強くなった!!戦いで功績をあげ、実力で族長の座をつかみ取った!!!」

「だから負けるわけにはいかねぇんだよ。辛酸をなめずにのほほんとしてるお前にはな・・・!」

 

グリフィンが反論しようと口を開けたが、ジンジャーはそれを手で制した。

 

「それに俺は族長なんだ。部族の繁栄が第一だ。私情抜きでも俺はおまえを倒す。お前が望まなくてもな。」

 

レギオンの様子を見て、ジンジャーは戦いは避けられないと悟った。

 

「・・・確かに俺は兄さんに比べて苦労のない猫生を送ってたと思います。」

「でも。」

「俺も背負ってるものは同じ。部族のみんなを見捨てるわけにはいかない・・・!!」

 

「ジンジャー・・・。」

 

グリフィンが心配そうにこちらを見る。

 

「グリフィン。これは、やっぱり俺達二部族の問題です。」

 

「分かってる。だがせめて、見守らせてくれよ。」

 

グリフィンが下がって行く。

 

「ふん・・・。やっとやる気になったか。」

 

レギオンが力を呼び出し、エクシード化する。

 

「兄さん・・・。行きます・・・!!」

 

ジンジャーもまたエクシード化した。

 

 

ヒョォォォォーーー!!!

 

 

天候崩れ、冷たい風とともに雪が降り始める。

 

「・・・・・・。」

 

ジリッ

 

「・・・・・・。」

 

ジリッ

 

それを気にも介さずに二匹はにじり寄る。

 

「はぁ!!」

 

空を切って何かが飛んできた。

 

「っ!」

 

ジンジャーは反射でそれをよける。

 

「!!この技はケートスの・・・!」

 

「俺はエクシードなんだ。驚くことじゃないだろ?それに超音波はコウモリ猫なら誰でも出せる。あいつは使い方がうまかっただけだ。」

 

レギオンはそう言って走りこみ、格闘戦に入る。

 

「フンッ!シァ!!」

 

「はっ!やっ!」

 

レギオンが鉤づめで切りかかり、ジンジャーが拳で応対する。

 

「ウラァ!!」

 

鉤づめの一発で腹を切った。

 

「くっ!やぁ!!」

 

「ぐはっ!・・・ぬぅ~!」

 

ジンジャーは勢いづこうとする敵にアッパーを浴びせて出鼻をくじく。

 

「チィ!・・・はぁぁ!!!」

 

数歩下がったレギオンの右腕が熱を発し始め、高熱の炎となる。

 

「!・・・おおお!!!」

 

ジンジャーも空気中の水分をまとめて腕にまとう。

 

「「はぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

二匹が力任せに放ったパンチが激突する!!

 

ボシュゥゥゥゥ!!!

 

水蒸気が周りを白く染める。

 

「くぅぅ!!」

 

「ぬぅぅ!!」

 

足元の雪に線を引きながら二匹が蒸気の中からはじき出される。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

ジンジャーは足元の雪を蹴り上げ凍らせると、念力で操って、飛ばした。

氷の散弾だ。

 

「ぬぅえい!」

 

しかしレギオンは重力波でシールドを作ってとめた。

 

「ハァァ!!」

 

そしてシールドを集束させ、重力波動として飛ばしてきた。

こちらも重力波で相殺する。

 

バァァン!!

 

エネルギーがはじけるが、ジンジャーはそれをおとりに第二形態にチェンジして迫る。

 

「む!!」

 

レギオンが爪の一本一本から稲妻を放ってとらえようとしたが、ジンジャーは高速でそれをかいくぐってパンチを入れる。

 

「ぐっ・・・。確かに速いが、・・・これでどうだ!」

 

レギオンが右腕を突き出し、ジンジャーが浮かび上がる。念力だ。

 

「ぬぅ!ぐぅぅ!!」

 

「その姿は念力とオーラで身体能力を爆発的に上げた物。だが、それゆえ防御力に欠ける。」

 

レギオンの腕に氷の剣が装着された。

 

「その姿は両刃の剣だ。」

 

レギオンは氷の刃をぺろりと舐めると、ジンジャーに突進する!!

 

「く、・・・うぅ!!」

 

「無駄だ。こう押さえつけられてはさっきの姿にも戻れまい。」

 

レギオンが剣をまっすぐジンジャーの顔に向かって突き出した。

 

「ジンジャー!!」

 

後ろで見守っていたグリフィンが悲鳴を上げる。

 

「ぬぅぅ・・・がぁぁぁぁ!!」

 

驚くべきことが起きた。ジンジャーは自力で念力を破ったのだ。

 

「なにっ!ぐはぁ!!」

 

突き出された刃をすんでのところでかわし、重力波で強化された、エクシードブレイクパンチを放った。

 

「はぁ、はぁ・・・。」

 

一瞬カモミールの姿が見えた。姉はこっちに来るなと首を横に振った後、何かを言って頷いていた。

 

『あきらめちゃダメよ!ちゃんと夢をかなえなさい!』

 

(ありがとう。姉さん・・・。)

 

「ぐ・・・くそ・・・。」

 

レギオンが起き上がろうとするが、大ダメージでふらついていてうまくいかない。

 

「これで終わりにしよう兄さん!こんな戦いはもうおしまいにするんだ!!」

 

ジンジャーは第一形態に戻り、技の構えをとる。この戦いに終止符を打つために!

 

「ふんっ!おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

オーラの勢いが強まり、腕が水流におおわれる。

 

「テラー!ダイナマイト!!!」

 

テラーダイナマイト。エクシードグリフィンを倒した、エクシードジンジャー最強の技。

 

「ぐぅおわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

強力なオーラと念力でレギオンの動きを封じ、突っ込む。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

叩きつけた腕から高圧水流を発射し、止めを刺す。

 

「ぐ、はぁ・・・。くそ・・・。」

 

レギオンはエクシード化が解け、立ち上がれずにいる。勝敗は決したのだ。

 

「・・・。俺の・・・負けか。」

 

「兄さん・・・。」

 

「どうした?要求を言え。お前は・・・勝ったんだぞ・・・。」

 

ジンジャーはエクシード化を解くとゆっくり兄に近づく。

そして、にっこりほほ笑み、レギオンを助け起こしながら言った。

 

「俺の望みはただ一つ。二つの部族が争わず、仲良く生きていくことです。」

 

「・・・ふっ・・・。俺はお前への認識を誤っていたようだな。」

 

「え?」

 

「ただのほほんしてたわけじゃなさそうだ。今度、ゆっくり話そう。」

 

レギオンが柔らかい笑みを浮かべて言った。敵同士のころはわからなかった、この潔さもまた、兄の一面なんだろうか・・・。

 

「じゃあ!!」

 

「勝った側の要求を必ず聞く。それが、掟だからな。」

 

「よかった。兄さん!」

 

そう、俺はこうやって皆がお互いのことを理解して分かりあっていく。それを夢見ていたんだ。

 

「ふふ・・・まったくお前にはほんとに・・・ぐぅ!?」

 

「兄さん!?」

 

「ぐ!?が、・・・うおおおお!!!」

「うおぁぁぁぁぁ!!」

 

突然レギオンが苦しみ始めた。

 

「兄さ・・・うわ!!」

 

不審に思って近づいたジンジャーもレギオンから出たエネルギー波で吹っ飛んでしまった。

 

 

 

そして、

「ふ、・・・ふふふ・・・。」

 

そこにはエクシードレギオンが立っていた。しかし、

 

「ふふふふ・・・あははははは!!」

 

その声は明らかに違う。無邪気な、・・・子供の様な声だ。

 

「に、・・・兄さん!?」

 

「兄さん?・・・ああ、この『入れ物』のことだね。」

 

「お、お前は・・・誰だ!!」

 

驚いて身構えるジンジャーに対し、相手はクスクスと笑いながら言った。

 

「はじめまして!今度は僕と遊んでよ!!」

 

何が起きたのかは分からない。唯一つ分かるのは、

 

 

 

 

この存在は果てしなく邪悪だということだ。