さぁて、往生しな!

 

「縄張りなき…看護猫?」

 

なんだなんだ、旅猫はみんな二つ名があるのか?

 

「はい!世界中を旅しながら薬草学の知識を深めるんです。でもそのたびも一段落ついたからそろそろ帰ろう思ってたんです。」

 

「それで僕を見つけたのかい?」

 

「はい、ところであなたは?」

 

「あ、ごめん忘れてた。僕はファイアハート、この先の森にあるサンダー族の戦士だ。」

 

「ファイアハートさんですか。よろしくお願いします…あ、そうだ!」

 

ジンジャーは突然奥でなにやらごそごそやったあと、皿に何かを注いで持ってきた。

 

「ニンゲンの作った物もこういうときは役に立ちますよね!」

 

「ニンゲン・・・?なんだいそれは?」

 

「ニンゲン、知らないですか?二本足で毛が少なくて…。」

 

「ああ、二本足のことか。」

 

「あ、そっちじゃ二本足っていうんですね。あ、どうぞ。」

 

まさか再び皿で何かを飲むことになるとは。ファイアハートは思った。

 

「あ、もしかしてお皿使うの初めてですか?」

 

「いや、そんなことはないんだ。僕はもともと飼い猫だったから、途中で部族に入った身なんだ。」

 

「へぇ~飼い猫さんが部族に?珍しいですね。」

 

「そ、そうかい?」

 

「ええ、いろんな猫を見てきましたけれど自ら進んで飼い猫暮らしを捨てるなんてそうそういませんよ?」

 

「…そうなんだ。でも僕はこれでよかったと思ってるよ。」

 

「自分が好ましいと思ったこと、それを選んでいれば後悔だけはしませんからね。」

 

ジンジャーがにっこりとほほ笑んだ。

 

「うん…あ、ごめんこれありがたく飲ませてもら…!?」

 

ファイアハートは皿の中の液体を見つめて言葉を詰まらせた。

 

 

(なんだこれ……?)

 

 

緑色の濁った液体。それがたっぷりと入っている。

 

「青汁です!色は悪いけど栄養補給にはこれが一番ですよ!グイッと一発いってください!」

 

顔に出ていたのだろうジンジャーが天使のように微笑む。

 

「う…じゃ、じゃあ・・・。」

 

(大丈夫、これは体にいいんだ。これは体にいいんだ。)

 

ファイアハートは自己暗示しながら意を決して飲み干し、

 

「う……。」

 

あまりの不味さに顔が青ざめた。

 

「だっ大丈夫ですか!?また顔色が…。」

 

ジンジャーが慌てている。彼はこれを飲んで平気なのか!?

 

「ごめん、もうひと眠りする…。」

 

今度からは丁重に断ろう。ファイアハートは心に決め、寝床に向かった。

 

 

ファイアハートがいなくなってから二日がたった。

 

彼の突然の死と、元シャドウ族出身の狂戦士二匹の登場で一族は落ち着かない雰囲気に包まれている。

 

グリフィンはせめて子猫たちだけでもこの重い空気から解放してやろうと思い、何度も遊びに行っていた。

 

(思ってたよりも、デンジャラスな寄り道になったな。)

 

フッと一人鼻で笑う。今までの旅でも何度かこんなことはあった。

 

(ジンジャーは、あいつは今どこで何をしてるだろうな…。)

 

かつての旅で出会ったかけがえのない親友のことを思い出す。

 

「グリフィン、パトロールの時間だ…。」

 

グレーストライプが戦士部屋に入ってきた。

 

このところ彼はずっと落ち込んでいる。かけがえのない親友がいなくなったのだ。当然のことだろう。

 

「ああ、行こうか。」

 

グリフィンは腰を上げた。

 

 

 

「僕もそろそろ森に帰らないと。」

ファイアハートはジンジャーに言った。

体の具合はよくなったし、仲間達が自分を川にたたき落としたあの、凶暴な浮浪猫に襲われてるのかもしれないのだ。

 

「なら一緒に行きましょう。道は途中まで一緒みたいですし。」

 

ジンジャーが荷造りを始める。本人いわく、必要最低限の薬草と青汁と皿はいつも持ち歩いているそうだ。

 

数分後、つるで括られた荷物を背負ったジンジャーがやってきた。

 

「いきましょう。」

 

二匹は森に向って歩き出した。

 

 

 

「てぇや!」

グリフィンは背後から襲いかかってきた猫を蹴り飛ばした。パトロール中に獲物を狩っていた浮浪猫の一団とばったり出くわしたのだ。

 

(チィ…やばいな。)

 

敵を引っ掻き倒しながらグリフィンは思った。

敵は前回ほどの数はいないが、あの二匹がいる限りこちらが劣勢だ。何とか状況を打開せねば。

 

「うわぁ!」

 

目の前にグレーストライプが飛んできた。敵に殴り飛ばされたのだ。

 

「くそっ!アイツ!」

 

「落ち着け!グレーストライプ!」

 

「落ち着いていられるか!アイツは、アイツはファイアハートの敵だ!」

 

グレーストライプは目をぎらつかせてクローファングに襲いかかる。

「まてっ!一人じゃ無理だ!」

 

止めに入ろうとしたグリフィンの足元に刃が突き刺さった。

 

「お前か?クローファングが言ってたのは?」

 

クラッシュテイルだ。

 

「悪いなMr。あいにく今日は相手をしてる暇がない。」

 

言ってどくわけがないが、急がなければグレーストライプが殺される。

 

「はっはっは!何を寝ぼけてる?俺を楽しませろ!」

 

狂気的な笑みを浮かべるクラッシュテイルに対し、グリフィンは後ろ足で立ち上がる。

 

スルーできるような相手じゃない。ならば全力をもって倒すしかグレーストライプを救う術はない。

 

「さぁて、往生しな!」